お知らせ・活動報告

日本の製造業における機械設計業の役割

1.機械設計業とは

 a.日本の製造業の中で、機械設計業が果たしてきたこと

 機械設計業は、1945年の日本の敗戦により壊滅的状況に陥った製造業が本格的に復興する1960年前後に、その中心になった造船・重機メーカーの設計部門の中で、最初はトレースのような補助的な作業を請け負う業者として誕生した。

 最初は補助的な作業をしていた人達も、経験を積み、次第に詳細設計、計画設計、基本設計と、製造業の開発、設計部門の中枢の仕事を担当するようになっていった。

 製造業の業種も、造船、重機械、自動車、家電、工作機械、建設機械といった日本を代表する工業製品のメーカー、及び鉄鋼や石油化学等の素材産業など、あらゆる企業の中に機械設計業者が入り込み、「ものづくり立国日本」を陰で支える存在に発展していった。(この業態は欧米先進国では殆ど見られない日本独特のもので、ある意味で日本の「ものづくり」の強さを形作る要因の一つになっていると思われる。)

 現在、トヨタ、ホンダ、日産三菱自動車などの自動車メーカーや、デンソー、アイシン精機等の部品メーカー、また、ソニー、パナソニック、日立、東芝、三菱電機などの電機メーカー、三菱重工業、三井造船、IHI、川崎重工業といった造船・重機メーカー、ファナック、アマダ、ヤマザキマザック、不二越などの工作機メーカー、キャノン、カシオ、エプソンなどの事務機器メーカー、さらに、新日本製鐵、JFEスチール、三菱化学、旭化成、住友化学といった製鉄や石油化学などの素材メーカー等々あらゆる日本の「ものづくり企業」で機械設計業の技術者達が数万人規模で仕事をしている。

 b.経済産業省の統計(平成26年 特定サービス産業実態調査より)

   ・ 事業所数  6,440事業所

   ・ 従業者数   51,533人

   ・ 年鑑売上   5,135億円

2.機械設計の概要

 a.「ものづくり」をする上での機械設計の役割

 「ものづくり」の流れは、最初に機械の必要性や技術を考える「発想」がある。そして、実際の機械の構造や計上を考えてゆく「設計」があり、それを実際に作るために図面にあらわす「製図」がある。さらに、図面に基づき「製作」を行う。その後、作り上げた機械の「性能評価」を行って、さらに進化した機械の設計へと続く。

 この一連の流れの中で、機械設計は、発想を具現化するために様々なことを考える重要な課程である。この過程においては、力学を中心として知識はもちろん、要素技術や機械製図、機械加工、材料など様々な幅広い知識が必要になる。

 機械設計企業の社員である設計技術者は、主に「設計」「製図」を担当している。

 b.機械設計の分類

 機械設計業務を設計の手順により大別すると、基本的に次のように分類される。

 ・基本設計 機械や装置の基本仕様決定のための基本計算や基本構想図を作成するための基本設計業務。

 ・計画設計1 基本計画に基づき、機械や装置の機能・構造・機構などの具現化を図る計画設計業務。

 ・計画設計2 計画設計を基に、実績のある機械や装置の参考例を応用して、機能・構造・機構などの具現化を図る類似計画設計業務。

 ・詳細設計1 機能・構造・機構などが具体化された計画設計を基に、機械や装置や個々の部品の詳細事項について、計算や図面などの作成を行う詳細設計業務。

 ・詳細設計2 詳細設計業務の補佐、並びに関連する製図などの業務。

3.機械設計業のビジネスモデル

  機械設計業を営む企業を大別すると、請負型と派遣型がある。

 ・請負型 機械や装置、プラント等の一部あるいは全部の設計を、機械メーカーやプラントメーカーから一式請負う形式である。その対価は、事前の見積による場合と、設計者の工数によって、作業後に研修する場合がある。

 ・派遣型 客先企業に設計技術者を派遣し、客先の中で設計の仕事を行う。対価は、作業時間×単価という形式が主で、単価は技術者の経験や技術力による。

 派遣技術者は客先企業の開発や設計部門の中に組み込まれ、数年から数十年間そこで仕事をするため、ベテランになると、客先の技術者以上の技術力を持つこともある。

 請負型と派遣型は、このようにビジネスモデルとしては明確に違っているが、純粋に請負型だけで仕事をしている企業は数十人規模以下の企業に限られる。数百人数千人といった大手の機械設計企業は、社員の大半を大手製造業の開発部門や、設計、製造部門メンテナンス部門等に派遣しており、一部で請負い業務を行っている。

 また、機械設計企業は、共同受注という形で、機械の加工・製造会社や工事会社と提携することも多々ある。

4.機械設計技術者の要請

 機械設計技術者の育成には大変な時間を必要とする。大学や専門学校で学んだ機械工学等の知識が基礎にはなるが、扱う分野が多岐にわたり、大変幅広い知識を必要とされるため、実際の業務に携わりながらOJTや各種の講習、通信教育を受講することで知識を習得する必要がある。

 一人前の設計技術者といえるようになるには、10年掛かるといわれている。